忍び足のタランチュラ

“口先ばかりだ”

と罵りに来た

か細い糸をすぅっと出して

“あんたの命はこんなもんだ”

と吐き捨てるように言う

目の前を一匹のコオロギが飛び跳ね、ぱっと鋭い牙でその頭に噛み付いた

“俺たちはこうやって一日生きていくのに精一杯だ。生きているのがどうのとか、考えてる暇なんか無い”

じっくり味わうように、コオロギの頭を噛み砕く

“贅沢な悩みだ”

コオロギの足の先まで食べ尽くすと、さっき出した糸を空に放り投げた

“あの命をどうするかは、あんたの自由だよ”

風に乗ってゆらゆら舞うタランチュラの糸は、一度だけキラリと光った









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